スタイリスト行定幸治が共感した、「コーチ」のモダンなミクスチャー感覚。

  • 写真: 宇田川 淳
  • 文:佐野慎悟

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人気スタイリストによるナビゲートとともに、ニューヨーク発のファッションブランド「コーチ」の魅力に迫るインタビュー企画の第二弾。躍進を続けるトップブランドの、知られざる魅力の一部をお届けします。

2013年にスチュアート・ヴィヴァースがエグゼクティブ・クリエイティブ・ディレクターに就任して以来、レディ・トゥ・ウエアのフルコレクションを本格始動させるなど、急速にクリエイションの幅を広げている「コーチ」。創業76年の老舗ブランドが、いままた注目されているそのわけとは? 連載第二弾の今回は、エディトリアルのディレクションにも定評のあるスタイリストの行定幸治さんに、コーチの魅力を聞きました。

時代の空気を捉えた、スタイリスト的なミックス感覚。

LA在住のアーティスト、ゲイリー・ベースマンが描いたクラシックなアメリカンモチーフを大胆に取り入れた、今季のメンズウエア。パワフルなグラフィックと色づかいが、春のワードローブにフレッシュな彩りを与えます。

この日、行定さんが訪れたのは、昨年リニューアルした「コーチ表参道」。自然光を活かした開放感あふれる店内で、ヴィヴァースによる最新のクリエイションを体感しました。
「今季はアメリカのカウンターカルチャーの要素がコレクションにちりばめられていますが、ただ不良っぽくかっこつけるんじゃなくて、いろんな時代感をミックスしながら、ポップな感じに落とし込んでいるところがいまっぽいですよね」と行定さん。

ゲイリー・ベースマンによるグラフィックアートは、クラシックなモチーフに落書きを加えたような遊び心あふれる作風。1950年代風のボウリングシャツをベースに、パイピングやポケットの異素材使いでモダンな印象に仕上げています。

「ヴィヴァースが表現するアメリカって、すごく共感できるんですよね。イギリス人の彼から見たアメリカっていう表現方法と、彼と僕が同世代っていうことも関係していると思います。僕らの世代っていうのは、映画、音楽、スポーツと、常にアメリカが中心にありました。その外から見たアメリカらしさを、50年代でも70年代でも、ロックでもヒップホップでも、なんでもミックスしてモダンに昇華する感覚が面白いですよね」

「アウターのイメージが強いコーチで、こんなに遊び心の効いたシャツがあるってところも面白いですよね。もちろんスリムなパンツに合わせてもいいですが、いまなら同色系のワイドパンツでワントーンのスタイリングがお薦めです」と行定さん。シャツ¥31,320

「いまは多様性の時代だし、ひとつのジャンルに縛られるよりも、自分が好きなスタイルを自由にミックスしたほうが面白い。ファッションは性別にも縛られなくなってきましたよね。そういう意味でいうと、昔に比べてデザイナーも消費者もよりスタイリスト目線になってきたといえます。単なるデザイナーではなく、世界感をトータルで表現できる“クリエイティブ・ディレクター”が必要とされるのも、そんな理由からではないでしょうか」

「レディ・トゥ・ウエアを立ち上げて、まだ数年っていうのが信じられない完成度ですよね。ただ奇抜なことをやろうとするわけではなくて、しっかりラグジュアリーに仕上げているのはさすが」と行定さん。

もともとアクセサリーのデザイナーとしてキャリアをスタートさせたスチュアート・ヴィヴァース。コーチで本格的なレディ・トゥ・ウエアをスタートさせた彼のクリエイティビティは、より自由度の高いキャンバスを得てその世界観を一気に飛躍させました。
「やはりクリエイティブ・ディレクターという全体を俯瞰で見られる総合的な視点が備わっているから、つくるものがなんであれ、決してブレることがないんだと思います」

「男性がレザーを着ると武骨なイメージになりがちですが、このブルゾンは色目やリブ使いがジェンダーレスなデザインなので、大人が上品に着るのにちょうどいい」と行定さん。レザーブルゾン¥205,200

コレクションの中からボルドーのジップアップブルゾンをピックアップした行定さん。
「僕は9年間パリに住んでいましたが、そのうちの3年ほどは古着しか着ませんでした。このブルゾンのレザーにリブを合わせる感じはどこか古着っぽいデザインだし、クタクタになるまで着込んでみたくなりますね」とお気に入りの模様。ヴィヴァースも無類の古着好き。直接会話をしなくても、好き者同士通じるものがあるようです。

ファッションには、“ワクワク”が不可欠。

荷物が多いスタイリストにとって、容量の大きさは見逃せません。仕事道具一式をまとめて収納できるボストンバッグは、どんな現場にも欠かせない相棒になってくれそうです。ショートトリップやオフの日のジムバッグとしても活躍してくれるはず。

「バッグ選びの重要なポイントは、収納力と荷物の出し入れのしやすさ」と語る行定さんは次に、ショルダーストラップ付きのボストンバッグをチョイス。
「これは色目やスエード使いが上品な印象ですが、こうやって学生みたいにクタッとたるませてもカワイイ。ショルダーストラップもいいレザーなので、怒られちゃうかもしれませんが、あえて結び目をつくって短く持つみたいに、ラフなスタイルで使ってみたい」

上質なグレインレザーにグラフィティ風のチェックパターンを大胆にプリントした、大容量ながら軽量なボストンバッグ。サイドのパーツにはスエード素材を採用し、大人にふさわしい上品なデザインに仕上げています。バッグ¥151,200

「こういう大きいバッグを使う時は、小型のポーチなどを使って荷物を小分けにして収納しています。たとえば夕景が刻一刻と表情を変えていくロケ現場では、『あれはどこにしまったっけ』というつまらないことで時間を無駄にはできません。だから常にバッグの中身は整理整頓して、どのポーチになにが入っているか把握できるようにしています。すぐに取り出す定期や財布、メモ帳などを、外側のポケットに収納できるのも便利ですよね」

今季、象徴的なホットロッド風のグラフィックアートを、真っ赤なカードケースにプリントした遊び心あふれるデザイン。抜け目なく全身をスタイリングしていても、ふとした時に取り出す小物にキッチュなアクセントを。カードケース¥34,560

「この感じがすごい懐かしいっていうか、デザイナーと同じ時代を生きてきたからこそ、ちょっとしたことにすごく共感できる。たとえは悪いけど、財布とかクルマに憧れている少年時代に、駄菓子屋とかお祭りの景品でもらえるビニール製財布のデザインが、ちょうどこんな感じのキッチュなデザインでした。いまの時代のラグジュアリーはただ真面目にデザインされたものよりも、ちょっとふざけているぐらいがお洒落だと思います」

厚めのソールに幅広のシューレース。異なるスタイルやカルチャーをミックスして時代の空気感を表現したヒップホップの要素を引用しながら、ラグジュアリーアイテムに昇華させています。スニーカー(左)¥48,600、(右)¥39,960

ヒップホップファッションからの影響を感じさせるスニーカーは、カルチャーミックスが得意なヴィヴァースらしいポップなデザイン。
「音楽やストリートカルチャーをどう取り入れるか。そこにクリエイターのセンスは問われます。特定のジャンルに肩入れしすぎてもだめだし、薄っぺらいのもかっこ悪い。そして最終的に、品のあるモードに落とし込まれているかという部分が最も重要です」

デザインとエディトリアルの共通点に注目しながら、カルチャーをミックスするバランス感覚の重要性について語る行定さん。「ヴィヴァースがディレクションを始めてから、コーチのキャンペーンヴィジュアルもさらにブラッシュアップされましたね」

「今季はロックあり、ポップアートあり、ウエスタンあり、ヒップホップありと、いろんな要素がヴィヴァースの美意識によって編集されていて、眺めているだけでも心がワクワクするコレクションでした。根本的にファッションは楽しいものだから、素材やディテール云々よりも、まずは感覚的に面白いってことを大事にしたいですよね。ヴィヴァースとはそんな気持ちを共有できる気がするので、今後の活躍も楽しみにしています」

ゲイリー・ベースマンが描く、モダンなグラフィックアート

今季のコレクションで最も象徴的だったのが、ちょっと不気味な作風で世界的な人気を誇るゲイリー・ベースマンのグラフィックアート。落書き風のパワフルなプリントが、ファッションとアートの境界線をプレイフルに彩ります。特に、スプレーペイントを施したように見えるアクセサリーは、スタイリングに一点加えるだけでも抜群のインパクト。シンプルな装いにカルチャーをミックスさせて、モダンな空気感を取り入れることができます。

時を超えて愛されるアニマルパターンを再創造した、コーチの新たなアイコン“ワイルドビースト”。バックパック(H39.5×W25×D11cm)¥77,760、トートバッグ(H34×W31.5×D12cm)¥77,760、スニーカー¥37,800
大胆に施したスマイリーフェイスのペイントが、溶けて滴り落ちるプレイフルなモチーフの “ナーリー フェイス”シリーズ。財布には取り外し可能なIDケース付き。バッグ(H25×W33×D9cm)¥84,240、財布(H9.5×W11cm)¥43,200、ベルト¥34,560

2回にわたって取り上げてきた、スチュアート・ヴィヴァースが描き出す新しいコーチの姿。ミクスチャー感覚、古着っぽさ、ジェンダーレス、ひねりの効いたモダンなスタイル……。その表現の仕方は違えど、2人のスタイリストはヴィヴァースのクリエイションから同様の美学を読み解きました。この明確な世界観があるからこそ、1941年創業の老舗はいままた時代の空気感を捉え、私たちに新たな“ワクワク”を届けてくれるのです。

コーチ表参道
東京都港区北青山3-6-1 OAK OMOTESANDO
TEL:03-5468-7121

問い合わせ先/コーチ・カスタマーサービス・ジャパン TEL:0120-556-750(フリーダイヤル)
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