華麗に進化するブリオーニ

  • 写真:江森康之
  • 文:小暮昌弘

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世界屈指のスーツブランドが、初のクリエイティブ・ディレクターを迎えて大胆に変貌。

シベリアへの旅を想い描いた、贅沢なミンクのブルゾン

美しくエレガントなコートを着て、ミラノ駅に立つブリオーニ・マン。シベリアへの旅に携えるスーツケースに入っているのは、テーラリングの伝統技術と現代的な要素をミックスした、多用途な服……。シベリアへのラグジュアリーな旅に欠かせないワードローブであり、現代の紳士の身だしなみに必要なもの。ミューランは今シーズンのコレクションをこのように思い描いたのです。ビキューナ、ミンク、アストラカンという極上の素材を使い、構築的なシルエットに仕立てられたコートやアウターは、ブリオーニの職人的な手法や素材を用いながら、モダンさを備えた見事なデザイン。機能性をもったシャープなテイストや凝ったディテールも特徴的で、モダンなコートにスーツを組み合わせるようなコーディネートに新鮮さを感じます。「ひとつのスタイルに“公”と“私”、ビジネスとレジャーの両方の要素を持ったユニークなワードローブをつくりました」とミューラン。デザインや着こなしで“モダンさ”を存分に感じさせながらも、現代人のライフスタイルにもマッチする提案が隠されています。それは、長くメンズウェアの牽引してきた老舗の矜持といえます。
「ブリオーニのサルトリアの歴史とアウターウエアの結合を見つけ出して、コンテンポラリーでエレガントなスタイルを実現したかった」とミューランは語りますが、このネイビーのブルゾンを使ったコーディネートは、そんなミューランの渾身の一作といえます。一見オーソドックスなレザーのブルゾンに見えますが、素材はラグジュアリーなミンクファー。しかも表面をレザーカットしてパターンを入れてあるのです。加えてリバーシブル仕様となっていて、ファーを内側にすればシンプルに着こなすことも可能。見えないところにも贅をつくすこともラグジュアリーの本質といえます。インナーには白いシャツを合わせ、タイドアップ。チャコールグレーのパンツも細身のシルエットで、これまでのブリオーニとは異なる、モード感が感じられる着こなしではありませんか。

素材づかいに、ラグジュアリーの真髄が香る。

ニット¥693,000、パンツ¥86,100
写真は今回のコレクションを象徴する着こなしです。冬の平原からインスパイアされた色、ベージュを使ったウールコート。襟にはゴージャスなファーが使われていますが、これがビーバーのリアルファーで、取り外すことも可能。ビジネススタイルに合わせるときにはシンプルなデザインに早変わりします。襟にはスロートタブも付いていますので、寒いときには襟元をきっちりと閉じることもでき、防寒にも役立ちます。コートの立体的な仕立ては、ブリオーニのテーラード技術を如実に語るものですが、内ポケットのトリミングなどに使われるブラウンレザーは、コートを開けたときのアクセントにもなっています。インナーにはニットを合わせていますが、よく見ると、オフ白とエンジのニットを重ね着させていることに気がつきます。アイテムを進化させるだけでなく、着こなしでも新鮮に見せていて、長くハイブランドで活躍したブレンダン・ミューランの巧みなセンスが感じられます。
コート¥1,575,000、スーツ¥609,000、シャツ¥52,500、タイ¥28,350/すべてブリオーニ(ブリオーニ ジャパン)
上のニット、実は、前身頃にアストラカンの毛皮が使われています。アストラカンはシベリア原産の子羊の毛皮で、表面が渦巻き状で柔らかく、光沢があることで知られます。ロシアの人が冬に被る帽子によく用いられる素材ですが、これも今季のテーマ「シベリアへの旅」を象徴するものです。合わせたパンツはサイドが切り替えになったデザイン。フォーマル用からインスパイアされたものですが、ラグジュアリーなニットを合わせるあたりは、新生ブリオーニを感じさせます。下は、スエードの重量感あるコートですが、タイドアップしたスーツにこれを合わせているところに、斬新さが香ります。通常は羊革が多いコートの素材はカーフを使用、フランスでシャモア牛に近い希少な牛を飼育し、良質な雄牛の革のみが使われていますが、非常に軽く柔らかく、しかも光沢があります。カシミアファーを使ったライナーも取り外しでき、長い期間着用できるでしょう。中に着たスーツは代表的な「ブルニコ」というモデルでスリーピースとなっています。

英国調をリファンさせた、スーツの新作

今季のコレクションでは、クラシックなスリーピーススーツが数多く提案されていますが、これもそのひとつです。モデル名は「ガエタノ(GAETANO)」で、今シーズンからデビューしました。ウエスト位置を高めに設定し、ボタン位置、胸ポケット位置を少し高くしたデザインが特徴です。前身頃をより絞ってウエストラインを強調し、裾にかけて広がっていく美しくエレガントなシルエット。肩のラインはナチュラルで、背幅も従来よりも若干狭く、またアームホールも小さめにつくられています。着丈もサイズ50で75cmと、スタンダードなモデルに比べて2.5cmも短くなっています。素材はSuper160’sのウール54%+シルク46%の滑らかなもので、柔らかな仕立てと相まって、ブリオーニらしい佇まいです。シングルブレストながらピークドラペルのデザインで、加えて素材も英国調でクラシック。しかしシルエットは細身でモダンさが漂う、新しいブリオーニを象徴するようなスーツといえます。
ところでブリオーニは、ローマで「アトリエ・ブリオーニ」として始まりました。1952年、フィレンツェで世界初のメンズコレクションを発表、これまでの重厚なつくりとは異なる軽やかさが、スーツ界に革新をもたらしたといわれています。以来、世界最高のスーツとして世界中の政財界の要人から名だたるハリウッドスターに愛用されていますが、最高のフィッティングを求めるのならば、やはりオーダーがいちばんです。日本で扱われているのは、「ス・ミズーラ」と呼ばれるパターンオーダー。スーツ、ジャケットなどのドレスクロージングは、店頭に並ぶすべてのモデルがオーダー可能。用意されている素材は、スーツ、ジャケット、フォーマルウエアなどで約200種類、シャツで120種類、コートで10種類。ブリオー二銀座店ではビキューナ、キルギス、35色展開のカシミアなど、特別な生地での注文もでき、ネクタイやベルトもオーダーが可能。イタリア本社から年2回、マスターテーラーも来日し(2013年は10/4〜14)、彼にしか扱えない貴重な素材もリクエストできるそうです。

クラシックでモダンな、バッグ&シューズ

上写真と同じブリーフケース¥525,00
ブリオーニが提案している豪華な旅にはかなり大型のスーツケースが必要でしょうが、上の写真はブリオーニ・マンが日常から海外への旅行まで使えるようにデザインされたバッグで、素材の上質さが漂ってきます。ディスプレイ上段のジェットバッグ(JET BAG)は大型のもので、かぶせタイプのクラシカルなデザイン。ゴールドの留め具がゴージャスな雰囲気を醸し出します。内装に使われている素材はカシミア100%で、さすがブリオーニらしいこだわりといえます。下段のボストンバッグのデザインはさらにクラシック。丁寧な仕上げにもテーラーメイドの風格が感じられる逸品で小旅行に最適なバッグといえます。
靴¥126,000/すべてブリオーニ(ブリオーニ ジャパン)
これまでのブリオーニの靴というと、クラシカルなスーツに似合うように、ややロングノーズ気味でイタリアンクラシックを連想させるモデルが多かったのですが、新作のこのドレスシューズは、ラウンドトゥで、新しいブリオーニを予感させるデザインです。内羽根でウイングチップといったクラシカルなスタイルをモダンに仕上げているところが、クリエイティブ・ディレクター、ブレンダン・ミューランらしいワザといえるでしょう。素材がカーフ、色は深い色合いのボルドーで、キャメルカラーのコートに絶妙に合うカラーリングといえます。ソールは厚みのあるダブル仕上げ。重厚な作りの中にもモダンさを持つ新作といえます。ドレスからカジュアルまで、オールラウウンドに使えるでしょう。

高級スーツの代名詞的ブランドとして輝かしき歴史をもつブリオーニが、ブレンダン・ミューランを迎えた初のシーズン。職人的なテーラリング技術にミューランらしい機能性やモダンさを加わったデザインが特徴的といえ、コーディネイートにも彼の斬新さが感じられる見事なコレクションです。次回はどんなサプライズが用意されているか、今から楽しみです。