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デザイン

スイス、山々や湖と優れたデザインが響き合う国。(前編)

デザインジャーナリストの土田貴宏さんが訪れた、デザイン先進国・スイス。Pen Onlineでは、その旅を2回に分けて紹介します。前編で訪れるのは、レマン湖に面した美しい街、ジュネーブとローザンヌ。

ローザンヌの環境と結びついたSANAAの名建築。

ローザンヌの環境と結びついたSANAAの名建築。

一部が宙に浮いた巨大な平屋のようなロレックス・ラーニング・センター。この浮き上がった部分から敷地の中に入るとエントランスがある。

ジュネーブから電車で1時間弱、ルマン湖の北岸を東に進んでいくとローザンヌに着きます。スイスでは5番目に大きな都市で、人口は約13万人。高低差の大きい市内は、赤い屋根の古びた家々が折り重なるように立ち独特の風景をつくっています。街の高台にあるローザンヌ大聖堂や湖に近いオリンピック・ミュージアムが主要な観光地です。

一方、この街はスイスのデザインや建築の中心地としての顔も持っています。近年、注目される多くのデザイナーを輩出しているローザンヌ芸術デザイン大学(ECAL)やスイス連邦工科大学ローザンヌ校(EPFL)が、ここに位置しているからです。ローザンヌを訪れたら、決して見逃すべきでないのがEPFLの一施設であるロレックス・ラーニング・センター。権威あるプリツカー賞を受けた日本を代表する建築家、SANAA(妹島和世+西沢立衛)が設計して2010年に竣工しています。
ローザンヌの環境と結びついたSANAAの名建築。

床下から、丸い穴状の部分を見上げたところ。完全な丸ではなく、わずかに歪んだような形状をしている。

ロレックス・ラーニング・センターは真上から見ると長方形で、121.5✕166.5mという大きさ。巨大な平屋とも言える1層構造で、上下にうねるような形をしています。郊外の平地にあるので全貌をとらえるのは難しいのですが、実際に訪れるとダイナミックな美しさに圧倒されてしまいます。それは、まったく新しい建築体験と言っていいレベルです。

地上から持ち上がった部分は下を人が歩くことができ、椅子やテーブルが置かれたオープンスペースになっています。建物を貫くように開けられた大小さまざまの円形の穴は、とてもSANAAらしい形。この部分は断面が窓になっていて、採光や換気の機能を担うとともに、構造的には広大な天井を支える役目を果たしています。窓ガラス、ブラインド、カーテンレールも穴の形に合わせてつくられているわけで、設計から竣工までに要した緻密な作業を考えると気が遠くなるほどです。
ローザンヌの環境と結びついたSANAAの名建築。

建物の中もゆるやかな高低差があり、多様な空間の使い方に対応している。最も高い部分で約10mの高さがある。

大学の施設であるロレックス・ラーニング・センターがこの名前で呼ばれるのは、計画の主要なスポンサーが時計ブランドのロレックスだったかからです。誰でも自由に使える場所として開放されており、時間帯によってカフェやレストランもオープンしています。学生にとっては巨大な勉強室なので静かにしなければいけませんが、あまり気を使うことなく建物の中に入ることができます。

この建物がうねるような形をしているのは、壁によってではなく高低差によるゾーニングを意図しているからです。中でも目を引くのは、建物のコーナーの特に床が高くなっている部分。小山を登るような感覚なので、自然とそこに来る人は少なく、ひときわ静かな空気が漂います。ゆっくりと思索にふけるのにちょうどいい場所になっているようでした。
ローザンヌの環境と結びついたSANAAの名建築。

日没後、床下のオープンスペースからはかすかにレマン湖が見えた。建築の輪郭が風景を美しく切り取っている。

実はロレックス・ラーニング・センターからも、遠くにレマン湖や対岸の山々を眺めることができます。現代の高度な建築技術の粋を集めたような建築ですが、この独特のフォルムは環境と見事に調和しているのです。このように大規模な施設を日本人の建築家がスイスで手がけることになったのは、2つの国の人々が共通する美意識や価値観を持っている証に思えます。精巧さ、簡潔さ、自然との結びつきなどに価値を置くという点で、日本とスイスが似ているのは確かです。一方で異なるのは、スイスの人々のほうがより柔軟に幅広い創造性を受け入れる点でしょう。EPFLでは今後、ロレックス・ラーニング・センターと広場を挟むように、建築家の隈研吾が設計する新しい施設をつくることが計画されています。

2014年、日本とスイスは国交樹立150周年を迎えました。これからも両国の人々がヴィジョンを共有し、手を組むことで高度な創造性を発揮する動きに期待せずにはいられません。(後編へ続く)

関連リンク:日本・スイス国交樹立150周年記念 特設ウェブサイト  http://swiss150.jp

スイス、山々や湖と優れたデザインが響き合う国。(後編)