KIGI(キギ)のすべてに出合える場所、「OUR FAVOURITE SHOP」へようこそ。

  • 写真:江森康之
  • 文:猪飼尚司

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白金に誕生したKIGIの新スペース。彼らの世界が映し出されたその場所をさっそく訪れました。

自分たちがつくったものを、ていねいに伝えたい。

昔ながらの町工場をセルフリノベーション。天井は剥き出しのままで、奥の壁に見える棚は、もともとあったものを塗装し、ガラス板を渡しただけ。
「お店が大変なことはよくわかっているんですけどね」と言いながらも、ショップを見渡しながら、満足そうに笑う2人。
植原亮輔と渡邉良重の2人によるデザインチーム、KIGI(キギ)。パルコやウンナナクールの広告といったクライアントワークに携わる一方で、プロダクトブランド「D-BROS」、渡邉がデザインを手がけるファッションブランド「CACUMA」、そして滋賀発の新しいものづくりのかたちを伝える「KIKOF」などのように、彼らは表層的なデザインにとどまることなく、企画から製造、流通に至るまでの仕組みづくりに積極的に関わっています。

自分たちが大切な気持ちと時間をかけてつくり出したモノたちを、きちんとした環境下でていねいに伝えたい。そう考えた2人は、植原の学生時代からの友人でクリエイティブディレクターの森谷健久、そしてKIKOFの陶器製造を手がける信楽焼の窯元、丸滋製陶とともに、東京・白金にオリジナルショップ「OUR FAVOURITE SHOP(アワ フェイバリット ショップ)」を7月にオープンしました。
滋賀県の信楽焼で生まれたKIKOFは、一つひとつていねいに職人が手づくりしている。琵琶湖の朝、昼、夕方、月夜をイメージした4色が揃い、薄くて軽い器は、まるで折り紙でできているかのように見える。
斬新とも言えるグラフィカルなアプローチで、発表以来、各方面で話題を集めていたKIKOF(上写真)も、テキスタイルや家具など、陶器以外の全ラインアップを紹介。KIGIがどのような気持ちを込め、関連づけながらデザインしていたのかが、プロダクトを通して見えてくるように感じられます。
「KIKOFは作家ものではありませんが、一般のマスプロダクトとも一線を画する独自の背景をもったプロダクト。だからこそ、このようにまとめて見せながらしっかりと世界観を伝えることが、ずっと自分たちの夢でした」と植原さん。
鏡面仕上げのカップにソーサーの絵柄が映り込むシリーズは、D-BROSの人気商品。
OUR FAVOURITE SHOPの活動の可能性を示す金色に輝く大きなキッチンテーブルは、インテリアのキーアイコンにもなっている。
ほかにもKIGIの代表的な作品が並ぶなか、目を引くのがショップの片隅に備えられた金色の大きなキッチンカウンター。
「単にモノを売るだけでなく、私たちが考えていることや感じていることに共感してくれる人や仲間が集まる場になってほしいと考えています。カフェはできないけれど、扱っている器を実際に体験できるワークショップや食のイベントなども将来的にしていきたいですね」と渡邉さん。

住宅街の一角に、ひっそりとある理由。

「焦ることなく、ゆっくりとしたペースでこの場所を育てていければいいですね」と植原さん。
「デザインは形づくりだけをお願いされる“請負仕事”のように思われがちですが、裏ではプロデューサーや生産者と顔をつき合わせ、デザイナーもしっかりと責任を負わなければいけないと僕たちは考えています」と植原さん。OUR FAVOURITE SHOPは、こうしたKIGIのデザイナーとしての態度を表したスペースと言えるかもしれません。ショップを繁華街ではなく、住宅街の裏通りにひっそりとつくったのも、彼らなりの意図が込められているようです。
「奥まった少しわかりにくい場所でも、地図とにらめっこしながら一生懸命来てくれる人たちがいる。わざわざ探して来た場所だからワクワクする気持ちも味わえると思うんです」
前職のDRAFT在籍時代にスタートしたプロダクトブランド「D-BROS」で、2人は商品開発力と流通販売の仕組みを学んだ。
渡邉良重がデザインを担当している「CACUMA」は、“ほぼ日”の愛称で知られるほぼ日刊イトイ新聞がプロデュースを担当するファッションブランド。
繊細な素材を大胆な構成で見せる薗部悦子のコンテンポラリージュエリーが、美しく陳列されている。
OUR FAVOURITE SHOPには、これまでにKIGIがデザインしたアイテムのほかにも、独自の目線でセレクトしたジュエリーやここでしか手に入らないOUR FAVOURITE SHOPオリジナルプロダクトなども揃っています。
「東京は街中にすでにおしゃれなセレクトショップはたくさんありますし、私たちは目利きのバイヤーではありません。でも、KIGIにしかできないオリジナルな展開がしていきたいです」と渡邉さん。
元は小さな町工場だった場所をリノベーションした空間は、インテリアはもちろんKIGIによるもの。自分たちの感覚と手で、地道に育てあげていくショップ。ここに来ればKIGIの最新動向が分かるように、ことあるごとに新作も追加していく予定です。
空、緑、地をテーマにしているOUR FAVOURITE SHOP。オリジナルプロダクトもその3つの要素をイメージしながら、3色からなるアイテムを揃えた。

ショップが社会や街とのつながりに。

DRAFT時代から協働を続けてきた植原と渡邉。あうんの呼吸で会話を進める。
植原さんはこのショップを開いたことについて、「新しい発信の場所をもったことで、自分たちの活動もちょっと変化を見せるかもしれません」と語ります。これまでは年に一度のペースで企画展を行ってきましたが、OUR FAVOURITE SHOPをはじめた現在、もっと頻繁に何かしら発表していきたいとも考えるようになったとか。
「ショップはある種、社会や街との接点になりうるとも思っています。まだ越してきたばかりでご近所との付き合いは深くありませんが、もっと仲良くなって季節毎の行事なんかもできたらいいですね」と渡邉さん。
フリースペースの中央に置かれたテーブルと椅子もKIKOFから生まれたもの。制作は滋賀の木工職人、川端健夫が担当している。
ガラス戸の前には、水を入れることで自立するD-BROSのビニール製の花器「Hope forever blossoming」が置かれている。
店舗奥にあるスペースでは、オープンに合わせKIGIキュレーションによる写真家、大矢真梨子の展示会を開催。今後は企画展はもちろん、植原、渡邉それぞれの個展やKIGIがデザインした器をつかった食イベントなど、フリースペースも最大限に活用しながら、KIGIはさらに表現域を広げ、新しいデザインの可能性を模索していくことでしょう。実際にOUR FAVOURITE SHOPを訪れてみれば、KIGIがいま何を感じ、考えているのかがわかるのです。(猪飼尚司)

OUR FAVOURITE SHOP

東京都港区白金5-12-21 
TEL:03-6310-1927
12時~ 21時
定休日:月、火
www.ofs.tokyo