DOUGUYA―いまに息づく美しき和家具

  • 写真:江森康之
  • 文:佐藤千紗

Share:

あたらしい骨董店 Vol. 05:あたらしい感覚の骨董店を訪ねるシリーズの最終回は、日本の時代家具を磨き上げ、繊細なデザインとテクスチャーをもった家具に再生する渋谷区富ヶ谷の家具店に伺いました。

モダンな空間に合う和家具にリペア

細く繊細なモダンデザインのような和家具が並ぶ店内。コンクリートの空間に映える。
むき出しのコンクリート壁やモルタルの床というラフな空間に対比的に組み合わされた、端正な木組みの花台やショーケース。松濤や駒場の瀟洒な住宅街にほど近いDOUGUYAには、古い日本の家具や道具が丹念にリペアされて並んでいます。表面を洗い、やすりがけされた木地は、古道具特有の埃っぽい時代感や年代物の重みというものはなく、何年も使い込んだ洗いざらしの布のように、やわらかで清潔な風合い。店に漂う凛とした空気は、注意深くセレクトされた日本の家具特有の細くて軽やかなライン、直線的でシンプルなデザインから醸し出されるものでしょう。DOUGUYAに置かれている家具は、昔ながらの日本家屋ではなく、都会のマンションにでも似合いそうな、現代的な表情を見せています。
医療用器具を加工した展示台。壁付けのアーム式展示台 ¥270,000(参考価格)
鉄の展示台 ¥129,600(参考価格)

代表の田口雅啓さんが選ぶのは、おもに明治から戦前にかけて日本でつくられた家具。長年で築き上げた独自のルートから仕入れた古家具をメンテナンスするだけでなく、時にはショーケースの棚板を木からガラスに替え、支柱を真鍮に付け替えるなど、いま使いやすいように、元の姿に手を入れていきます。

家具を買い付ける時の基準は店の空間に合うかどうか。仕上がりをイメージしながら、慎重に選びます。自分たちの手でリノベーションしたスケルトンの内装には、がっしりとした民芸調のテーブルや重厚な装飾金具が付いた箪笥は重過ぎる。結果として、よく選ぶのは、医療用のガラスケースや器具、商店で使われたショーケースなど、機能的で無駄のない道具たち。
たとえば、上写真の右は医療用洗面ボウルスタンドだったもの。ガラス板をはめ、元々塗られていた白いペンキを剥がし、鉄の素地を磨きあげて仕上げました。左は医療用の作業台を展示台として転用。こちらは、元の漆塗装をそのまま残しています。

緊張感のあるミニマルなラインの花台
下駄屋で使われていたショーケース。トップは光を通すようガラスに付け替えた。店舗用什器として買われることも多い。

日本のものの美しさを再発見。

古い日本の洋食器と合わせてコーディネートする代表の田口雅啓さん。
大学で建築デザインを学び、空間づくりに興味があったという田口さん。アンティーク家具を扱う会社に入ったのは、8年前。最初は西洋アンティークの豪華な装飾や意匠、圧倒的なボリュームに憧れを抱いていたと言います。古家具の塗装を剥ぎ落とす手法に出合ったのも、下積みを経験した店でのこと。同業者との違いを出すための加工を単なる作業と考えていた田口さんですが、無心に繰り返すことでその心境に変化が生まれます。
「古びてボロボロの家具が塗装を剥がすことで、別のものに変わっていく。素材そのものの質感に魅入られました」。やがて、ヨーロッパからアジアまでのあらゆる家具に実際に触れるうち、日本の家具の魅力に気づきます。「日本の家具を手入れしている時にだけ、特別な充実感を感じるようになりました。素材、控えめな意匠、ほどよい大きさが小柄な自分や日本の環境にしっくりくるのでしょう。それからヨーロッパ家具のような自分からかけ離れたものではなく、自分にとって美しいものとは、長く付き合っていけるものとは何かを考えるようになりました」
たくさんのものを見るうちに、だんだんと簡素で無垢なものの美へと行き着くのでしょう。けれども、そうした日本の家具をほかの西洋家具と混ぜて店頭に並べると、洗練された美しさが掠れ、薄れてしまう。そこで5年前、26歳の若さで、日本の古道具、家具だけを扱うDOUGUYAをスタートさせることになりました。
古家具とテイストを合わせたオリジナルのダイニングテーブル¥248,400やショーケース、ミラーなども製作している。
すりガラスが美しい鶴首のブラケットライト¥43,200。昔の製法を再現したオリジナル照明。
当初、古い家具に手を入れることに葛藤もあったと田口さんは言います。経年変化を愛でる一方で、長い時を経て残ってきたオリジナルを壊し、自分の美意識に従って改変することにもなるからです。「でも、この店でいちばん輝く姿にすると決めたことで、迷いはなくなりました」。その手法は、不具合を直して元の姿に戻す修繕とも、廃材や古物を材料に新たなオブジェを生み出すブリコラージュとも違います。古いものの中に現代に通じるかたちを見出し、より美しい姿にするために手を加える。いまという時代のフィルターを通すということが、ものが生き続けるということなのでしょう。時代の古さや希少性、伝来に価値を置かず、テクスチャーやフォルムなど佇まいを重視する現代ならではの骨董のあり方ともいえます。

リノベーション世代の新骨董。

アートのようにも見える、朽ち果て錆びた鉄の板。¥10,800
思わず触りたくなる木目やテクスチャーをもつ小さな展示台。
「最近は、無作為に生み出されたなんでもないものが気になる」という田口さん。古い帳面、紙束、打ち捨てられて錆ついた鉄板……。かたちや用途にとらわれず、ものの存在感を見るようになったということでしょう。家具だけを並べるのではなく、そうしたオブジェや小物と組み合わせてしつらえることで、空間に独特のリズムが生まれます。「イメージを売っている」と言うように、ウェブサイトのビジュアルにも力を入れてきました。いまではウェブと実店舗の販売が半々なのだそう。
空間のしつらいや取り合わせの妙により美をつくり出すというのは、利休以来の日本の伝統であり、ものだけでなく、店のインテリアと一緒にプレゼンテーションする方法も、東京・目白の「古道具 坂田」に始まり、恵比寿の「アンティーク タミゼ」や元麻布の「さる山」に続く、骨董店の系譜です。その中でDOUGUYAの提示する骨董には、生まれた時からモダンデザインの洗礼を受けてきた世代ならではの、和にも古道具の決まりにもとらわれない自由な感性を感じます。それは、古いものの素材感や味を取捨選択しながら引き継ぐ空間のリノベーションの手法を取り入れた、骨董の新解釈なのかもしれません。(佐藤千紗)
ショールームの隣にある作業室。ここで仕入れた古道具がシャープな佇まいに生まれ変わる。