いま話題の『雑貨展』で考える、 どんな「モノ」を選ぶのか?

  • 写真:江森康之
  • 文:小川 彩

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六本木の21_21 DESIGN SIGHTで開催中の『雑貨展』が話題になっています。身近ながらも奥深い「雑貨」の魅力を考える、ユニークな展覧会にクローズアップしました。

「雑貨」という言葉を聞いて、あなたはどのような「モノ」を思い描きますか? 東京・六本木の21_21 DESIGN SIGHTで開催中の企画展『雑貨展』では、世代も職業もさまざまな人が捉えた、膨大な量の「雑貨」がキュレーションされ、展示されています。そもそも、ひと言で説明しきれない雑貨をテーマとした背景には何があるのでしょう? そして、展示されている雑貨からは、どのようなことが見えてくるのでしょう? ここではプレスプレビューと3月26日に開催された関連プログラム「雑貨展企画チームによる雑談」を通じて、この企画展のディレクターを務めるデザイナー・深澤直人さんをはじめ、普段からデザインに関わる仕事をしている企画チームや出展者の一部の方々の言葉から、なぜいま雑貨なのかについて考えてみました。

雑貨とは何だろう? リサーチはそこから始まった。

21_21 DESIGN SIGHTエントランスのバナーに大きくプリントされた『雑貨展』のロゴ。インパクトがあります。このロゴをすった今展オリジナル手ぬぐいも人気です。
「雑貨」の魅力を伝えたいというディレクター・深澤直人さん。展示には深澤さんが選んだクマの姿をしたシャボン玉を吹くおもちゃも並んでいました。写真提供:21_21 DESIGN SIGHT

「雑貨はパワーのある魅力を放っている」という企画展ディレクターの深澤直人さん。日本語でしか表現できない「雑貨」は、デザインだけでなく、アート、骨董、民藝や工芸というカテゴリーをしのぐ力をもっているのではないだろうか? そんな風に感じたことをきっかけに、「雑貨」を企画展のテーマとして提案したそうです。シンプルなタイトルも企画会議で自然に決まりました。

「デザイナーにとって、21_21 DESIGN SIGHTの仕事は緊張させられるが、雑貨というゆるみのあるテーマが、肩の力を抜かせてくれた」と言うのは今展の印刷物のグラフィックデザインを担当した葛西薫さん。タイトルの漢字3文字を書き文字にしたデザインは、日本的なテーマであることを意識されたとか。そして、西洋を意識したという黄色とグレーの配色も印象に残ります。

展示でまず出合う作品「松野屋行商」。横浜開港資料館所蔵の資料写真「荷車を引く男」をもとに、大八車の行商をデザイナー・寺山紀彦(studio note)さんと荒物問屋・松野屋が現代の日用品で制作しました。
イラストレーター・川原真由美さんによる「雑マンダラ」。雑煮や雑草など、「雑」のつく二文字熟語から、日本独特の「雑」の表す文化や完成をひも解く作品。

「雑貨は世代によって思い描くイメージの違いがある」と言うのは企画構成を担当した21_21 DESIGN SIGHTの前村達也さん。ご自身はかつてのソニープラザや、ヴィレッジヴァンガードで売られているようなものをイメージするそうですが、ある世代の方は文化屋雑貨店を真っ先に思い浮かべるというように、10代、20代で体験したことと言葉が強く結びついているのではと感じたそうです。

もともと幕末に生まれたという説がある「雑貨」という言葉。「雑」にはネガティブな響きもありますが、いろいろなものがある状態も指します。幕末に開国してから一気に外国のものが流れ込んできた状況で生まれた「雑貨」という概念は、江戸時代に長崎の出島の小さな入り口から入ってくるだけだった海外のものが、突然身の回りに現れ始め、とまどいながらも受け入れてきた中で生まれたのでしょうか。
「雑貨」として認識されたものが、時を経て日本に馴染み、日常にとけ込んでいく。現代も同じようにさまざまなものを吸収しながら、当たり前のようにそこにあったものとして存在させているたくましい言葉なのかもしれません。

深澤直人と展覧会企画チームが考える「雑貨」。リサーチで持ち寄り、取捨選択と対話の結果残ったものを3つのテーブルに構成し、展示しています。
ケトルやスツールなど同じアイテムでも量産品やデザインものなど性格が異なるものが点在。でも全体に「雑貨然」としているのはディスプレイのなせる技でしょうか?

展示準備のリサーチの段階では、深澤さんと企画チームメンバーが「雑貨」と思うものを持ち寄ったのですが、実用品や工芸品を入れる人もいれば、家具を持ってくる人もいて、スタートから「雑貨とは何だろうか?」と全員が悩んだとか。

今展のショップ「雑貨店」の監修を担当したmethodの山田遊さんは「雑貨という言葉は便利に使われてきた」と言います。デパートの1階など靴やバッグ、アクセサリー売り場を“ファッション雑貨”と呼ぶし、インテリア業界では、リビングに置くものや、その他としかいえないものはすべて“リビング雑貨”というカテゴリーに押し込める。そんな許容範囲の広さが雑貨を捉えどころのないものにしている、と改めて感じたそうです。

当初、体系づけたりカテゴライズしようと試みた企画チームも、ものを並べるリサーチを3~4回重ねながら、次第に一個一個の品物を雑貨として捉えるのではなく、持ち寄って集まった「状態」が雑貨である、と考えるようになりました。そのリサーチの成果がギャラリー2の最初の展示「雑貨展の雑貨」です。

もののカテゴライズよりも、集めたもののパワーから感じることに注目!

黒い鉄のパイプでゆるやかに展示スペースを仕切ったギャラリー2。展示のほとんどが目線の高さにあるので、雑貨店内や市場を移動しているような気分に。
ナガオカケンメイさんとD&DEPARTMENTによる「d mart used D&DEPARTMENTが考えるコンビニエンスストア」。必要以上の数がある生活道具を集めてコンビニエンスストアを制作。

展示の中心となるギャラリー2は、それぞれの展示の仕方や出品されたものの性質を考えて、視覚の死角をつくらないように配慮。展示品があっても会場をなるべく見通せるようにと、壁ではなく、黒いパイプのフレームで展示の区画を表現しています。前村さんは「逆説のようにさまざまなものを発見する喜びを表現できたのでは」と評しました。ここでも小さな雑貨たちを展示群とすることで、そのパワーを引き出しているのかもしれません。では、出展者と展示されたものを観ていきましょう。

「森岡書店」代表・森岡督行さんによる「銀座八丁」と「雑貨」。昭和28年の銀座通りを撮影した写真帳「銀座八丁」に掲載され、現存する店舗で買った香りのする石鹸やコロンなどの雑貨を陳列。
「S/S/A/W」主宰でフードデザイナーのたかはしよしこさんは自身のお店で使っている食器や道具のほとんどを会場に展示しました。中には作家ものの器もありますが、これも雑貨の一部。

メインとなる展示のひとつ「12組による雑貨」は、さまざまな分野のプロフェッショナルに自身の持っている、もしくは販売したり使っている「もの」をディスプレイしてもらい、彼らの世界観やその人物の背景を雑貨から感じてもらう展示です。この12組の出展者を選ぶとき、企画チームはどのような意図をもって声をかけたのでしょう。前村さんはこのように話します。「企画チームメンバーが、それぞれこの人はと思う雑貨店店主と雑貨周辺に携わる方を挙げ、お声がけしました。展示していただくときに依頼したのは“あなたなりの雑貨”ということ。そこから携わる業種、世代、暮らし方などで選ぶものが変わるという多様性も見せたいと思ったのです」

12組の出展者の中にはPen本誌でも紹介され、読者の方に親しみのある店やブランドのディレクターも名を連ねます。ご存じの方はその人を思い浮かべながら鑑賞できるかもしれませんが、展示されている「もの」だけではその人の活動や環境を読みとりにくいもの。そこで12組全員の働く町や活動の背景を伝える映像作品「12組による雑貨の映像ドキュメンタリー」(島本塁/玄宇民 CGM)が会場で流されています。気になった展示があったら、映像で出展者の横顔をチェックしてみましょう。

ファッションブランド「YAECA」デザイナーの井出恭子さんは、グラスやカトラリー、キャニスターなどご自身の暮らしで愛用する生活道具を並べています。
ものを見るときどこでつくられたかが気になる、というalpha代表、クリエイティブディレクターの南貴之さんによる「ぼくの身近なMADE IN ○○○」
スタイリストという職業柄、膨大な量の雑貨に日常的に囲まれている岡尾美代子さん。遺失物取扱所というタイトルで、記憶から抜け落ちてしまったようなものもコンセプチュアルに展示。
世界各地の工場でオリジナル雑貨を製造し、販売している東京・三宿の「PUEBCO」では、なかなかうかがい知る機会のない雑貨というものづくりの背景を写真で展示しています。
東京・吉祥寺で「CINQ」と「SAML.WALTZ」を主宰する保里正人さんと享子さんは私物で「雑貨感」を表現。わさわさとモノが並んでいる状態のリズム感やボリューム感に「雑貨」を感じるそう。
島根県・石見銀山にある「群言堂」の松場登美さんが手がけた展示には、新聞のチラシでつくった鍋敷きや、プリントアウトした反古紙でつくったノートなど、日々の暮らしに根ざしたものが。
東京・吉祥寺の「Roundabout/OUTBOUND」代表・小林和人さんは、「機能と作用」というテーマで展示。機能的なステンレスバットを規則的に重ねた状態からも、美しさという作用が感じられます。

これは雑貨、これも雑貨? あなたの「雑貨感」が広がります

プロダクトデザイナー・藤城成貴さんによる「雑貨とデザインの考察」。自転車のカゴのあり方や玉入れのカゴの構造から発想したインテリアプロダクトにいたる考え方のプロセスを展示で表現。
中庭に展示した作品は、オランダのデザインユニット「WE MAKE CARPETS」による「Hook Carpet」。量販店で販売しているカラフルなS字フックを駆使してカーペットを表現。

ものを一つひとつ凝視すると、果たしてこれは雑貨と呼んでいいのだろうか? とふと考えてしまうようなデザインプロダクトや、アンティークのアイテムや工芸品、そして作家のつくった器などが目に留まりますが、あくまでも集積している状態が雑貨と思うと、それらもアノニマスに感じてくるので不思議です。

「並べ方で雑貨かそうでないかが決まるのでは」というRoundabout/OUTBOUND代表・小林和人さんの言葉が印象に残ります。
群言堂の松場登美さんの展示には、暮らしの中で集めた布の端切れでつくったコースターや、布のデザイン画をプリントアウトした反古紙を使った手づくりのノートが並べられていました。「作品と呼ばれるものはつくられた時から魂が宿っている。雑貨は日々使っているうちに魂が宿るのでは?」という松場さんは、愛着をもって使うことでものに現れる表情を「雑貨感」として表現しているのかもしれません。

ショップ「雑貨店」。現在PUEBCOによるポップアップショップを開催中。4月20日からはRoundaboutが登場予定。
今展で展示している雑貨の一部をウェブサービス「Sumally」にて公開中。オンラインでも展示中の雑貨の一部をチェックできます。

身近な雑貨がテーマということもあり、展示だけでなく実際に手にできるように、ということでコンセプトショップ「雑貨店」も充実しています。深澤直人さんがセレクトした雑貨のほか、葛西薫さんによるオリジナルロゴの手ぬぐい、そして出展者のプロダクトなども並びます。
松野屋(3月28日終了)、PUEBCO、Roundabout、平林奈緒美さんによるポップアップショップも注目しましょう。ちなみに本展からスキーマ建築設計の長坂常さんによる什器がショップでは使用されているそう。サーフェス材の間にウレタンフォームを挟んだ軽量な天板と、折りたたみ式の脚で構成されたコンパクトな什器を、ショップで見ることができます。
また、雑貨展公式Summallyのアカウントも作成。展示ではあえてアノニマスな状態でさまざまなものを展示していますが、このアカウントを通じて一部の雑貨の情報と画像を閲覧できるようにしています。

アーティスト・青田真也さんによる展示。身近な洗剤やお菓子などのプラスティック容器や紙パッケージの表層を取り去ることで、ものの価値を見つめ直すことを提示しています。
デザイナー/民具木平・野本哲平さんによる「雑種採集」。自転車のハンドルにつけた風よけや、ティッシュボックスでつくったチェストなど、市井の人が必要に迫られてつくった日常の道具を展示。

「雑貨という「美学」に焦点をあて、来場した人も企画した人もともにその魅力を語り合ってほしい」という深澤さんのメッセージにあるように、本展期間中は対話型のイベントがいくつか開催されます。特に4月末には、企画チームと雑貨店出店者らが出演し、ものについて自由に語り合うプログラム「何に着目すべきか」が予定されています。4時間にわたるゆるやかな雑談の中、来場者も自由に出入りしながら、雑貨やものについての議論に参加できる機会になるでしょう。

雑貨の周辺にいる目利きたちが表現した展示からは、「選ぶ行為を大切にして生きることの楽しさ」を感じます。私たちは種類もアクセス方法も多様になった「もの」を選ぶことに時に疲弊しがちですが、雑貨という親しみのある風景は、自分にとっての「ものの価値」を考えるよい機会になるかもしれません。(小川 彩)

雑貨展

21_21 DESIGN SIGHT(東京ミッドタウン・ガーデン内)
会期:2月26日(金)~6月5日(日)
休館日:火曜(5月3日は開館)
開館時間:10時~19時(入場は18時30分まで)
※4月28日(木)は関連プログラム開催のため特別に22時まで開館延長(入場は21時30分まで)
入場料:一般 ¥1,100、大学生¥800、高校生¥500、中学生以下 無料
http://www.2121designsight.jp
Sumallyアカウント https://sumally.com/ZAKKA

関連プログラム
4月28日(木)18時~20時「21_21 DESIGN NIGHT特別企画『何に着目すべきか』」
出演者:雑貨展出展者 参加作家 企画チーム

5月14日(土) 14時〜16時 トーク「欲しいもの、持っているもの」
出演者:山田遊(method) 山本憲資(Sumally)
※参加費、参加方法はウェブサイト参照。