YAECAの一軒家ショップ、その誕生を追います 【後編】

  • 写真:江森康之
  • 文:高橋一史

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東京・白金高輪に待望のオープンを果たした「ヤエカ ホームストア」。ここで働くスタッフにお話をうかがいながら、魅力あふれる店のエッセンスを紹介します。

木の温もりと、穏やかな色彩。

玄関を抜けて店内に足を踏み入れると、右手にある広々としたリビングルームに心奪われることでしょう。陽の光が降りそそぐテラスに面したこの部屋と、隣にある小部屋が家具の展示スペースで、実際に室内で使われるシーンを模したショールーム的なディスプレイになっています。テーブル、椅子はもちろん、壁に設置された照明器具も、一部の例外を除き購入できます。
2階の天井。もともとあった梁を残して、天板に杉板を張っている。
テラスに続くガラス窓は、鉄枠を塗装したオリジナル。
天井は天板を外し、梁(ハリ)をむき出しにした構造です。さらに、梁の上の屋根部分には、オイルを染み込ませた杉板をはめ込むというこだわりよう。この天井と、張り替えたフローリングの床、新しく塗られた白い壁が見事に調和して、優しく居心地のいい空間になりました。ヤエカのファッションアイテムの根底にもある「リラックスしたコンフォート発想」が、このショップではより明確に打ち出されています。
1階の右手は家具、左手は「プレーンベーカリー」(後述)のコーナーです。玄関の正面にはファッションアイテムを扱う2階へと続く階段があります。この階段はあえて表面に塗装を施さず、木の風合いが活かされています。大工さんが削った跡も見た目や手触りで感じられ、高品位でありながらも“人の温もり”を漂わせます。こうした穏やかな空間づくり、ていねいなアイテムづくりがヤエカの世界なのです。人が快適に暮らせるとはどういうことか、彼らによるひとつの答えがこのショップに込められているのかもしれません。
1階、小部屋の窓に置かれたインダストリアルなデスクライトは、1930年代の「グラ(Gras)」のアンティーク¥140,400

一軒家に似合う服のセレクション

ヤエカのオリジナル服は、古着のような懐かしさがありながらも、とてもコンテンポラリーです。一般の古着やワークウエアと大きく異なるのは、自然に身体に沿うゆとりのあるシルエットと、開発に力を注ぐオリジナルの生地との絶妙なバランス。大半の服は手触りも着心地もやわらかく、メンズであってもある種の可愛らしさや優しさが漂っています。アウトドアウェアや1950~70年代のアメリカの服がベースにありながら、ほかには見られない独自の「コンフォート」なデイリーウェアに落とし込まれています。織りネームやディテールに、ラグジュアリーなファッションのモチーフをさりげなく取り入れているのも彼らならではのセンスといえます。
リブ部分をニットに変えた大人仕様のグレーTシャツ¥17,280
空気を含んだふわりとした風合いの白スウェットシャツ¥20,520
コットン90%、リネン10%のざっくりとした風合いのデニム¥19,440
ヤエカ ホーム ストアの2階の部屋では、「この家に似合う」というテーマで選ばれた服がラインアップされています。ただし、今季春夏コレクションでは、このショップに置かれることが想定されずに生産終了した服が多いため、いまのところは「置ける範囲の中からセレクト」したようです。ヤエカを代表するコンフォートシャツは現在扱われていませんが、ぜひ今年の秋には期待したいところ。とはいえ写真で紹介している、オーガニックコットンの糸で甘く織り縮絨(しゅくじゅう)させたグレー生地のTシャツ、同じくオーガニックコットン糸を旧式の吊り編み機で編んだ定番の白スウェットシャツ、5タイプのシルエットで4タイプの生地から選べる定番デニムなど、ヤエカらしさが濃厚なアイテムは充実しています。

フランスのアンティーク家具に魅せられて。

ヤエカ ホームストアの大きな売りはフランスのアンティーク家具の取り扱いです。インダストリアル系、デザイナー系のものを中心に、素朴なニュアンスのあるものを比較的手頃なプライスで提供しています。ヤエカのディレクターの服部哲弘さんが愛好していたこれらの家具を、多くの人に知ってほしいという願いから生まれた試みです。家具を担当しながら、ふだんは店頭にも立つ林 修さんは以前に家具店「CREATE TASTE」を運営し、10年間にわたり1950年代のフランス家具を扱ってきた経験があります。ヤエカの一員になったいまでは、この新ショップでフランス家具の魅力を伝えようとしています。
林さんが語ります。「CREATE TASTEによく来店していたディレクターとは家具の趣味が似ていました。いまこうして一緒に家具を手がけるようになったのは自然な流れといえます。このショップでは主に30~70年代のものを扱っています。フランスと日本は住宅事情が似ているため、家具のサイズ感もちょうどよく、不思議と狭い部屋にもすんなり馴染んでくれます。個人的には、どことなく可愛らしさを感じるフォルムにも魅力を感じています」
マシュー・マテゴ(Mathieu Matégot)のランプ¥486,000
ニコルのテーブル¥280,800、椅子(1脚)¥62,640
上段の写真、部屋の中央に鎮座する木のテーブルと椅子は、「ルネ・ガブリエル(René Gabriel)」のもの。木材を組み合わせる作風のデザイナーで、50年代に人気を博しました。
「複雑に、格子状に木を組み合わせた家具シリーズには高価なものもあります。でもヤエカ ホームストアでは、お買い求めやすい製品を扱っています」
インダストリアルな鉄の質感が印象的なテーブルとチェアは、「ニコル(NICOLLE)」社の家具。椅子は30年代に誕生し「ニコルチェア」として知られるもので、現在はプレーンに塗装された復刻版も登場しています。当時は工場などの作業用として使われたことからもわかるように、大量生産品がもつ味わいと頑丈さに満ちた家具です。ヤエカ ホームストアでは、時を経てエイジングしたオリジナルの中から、椅子の脚先も当時のまま残っている、状態のいい製品を並べています。
家具担当のスタッフ、林 修(はやしおさむ)さん。後ろの棚はショップの什器で非売品。

手づくりフード「プレーンベーカリー」

フランス人一家が住んでいた一軒家という間取りを活かして、これまで中目黒のアトリエで手づくりされていたプレーンベーカリーのキッチンがこちらに引っ越してきました。ガラス張りのオープンキッチンになり、お客さんは調理の様子を外から眺めることができます。このプレーンベーカリーのキーパーソンで、クッキーなどを手づくりしているスタッフが長田佳子さん。もとはヤエカ恵比寿店に通うお客さんでした。「これまでフランス菓子、カフェ、レストラン、和菓子屋さんと修業を重ねて、月島の長屋の一角に小さな焼き菓子専門店を開きました。ヤエカ恵比寿店に通うようになったのはちょうどこの頃です。ですが、私の店は一緒にやっていた友人が結婚を機に遠くへ行くことになったため閉店。私はヤエカの一員として働くことになりました」
現在のラインアップは、クッキー6種、ケーキ4種、カレー3種、文旦ジュース、卵、コーヒー、ドライフルーツとコーヒー豆のバニラ蜂蜜、蜂蜜、グラノーラ。クッキーは6枚入り¥600から、カレーは¥1,450から。
彼女が加わったことで、ファッションブランドであるヤエカにフード部門が生まれました。プレーンベーカリーのテーマはどのようなものでしょうか。
「ヤエカの服と共通する点は、“心地よさ”でしょうか。身体が素直に喜ぶ感じです。たとえばクッキーなら、手づくり感が伝わるように、温かみを大切にしています。懐かしいような、記憶に残る味を研究しています」
材料は基本的に生産ルートがわかる国産を中心に、ドライフルーツやバニラビーンズなど海外に頼るものは主にオーガニック品を使用。今回からラインアップにカレーが加わり、新たな展開を見せています。
「料理家の冷水希三子さんにお願いして、毎日食べられるようなカレーをつくっていただいています。お野菜は京都のオーガニックの八百屋さんから送っていただいているので、野菜そのものがおいしいですし、スパイスに関しては特別に調合していただいています」
フード担当の長田佳子(おさだかこ)さん。
長田さんは「ヤエカ ホームストアができたことにより、衣食住に重きを置かれるお客様と、新しい関わりができているように感じています。お菓子は嗜好品ですし、食べ物は残らないものです。でも、長く付き合える洋服や家具を選んで気持よく視野が広がるように、食べることへの新しい喜びや充実感を得てもらえたら嬉しいです」と語ります。彼女の言葉通りに、このショップは新鮮な出会いを求める人にこそ必要とされる場なのでしょう。急遽オープンさせることが決まったヤエカ ホーム ストアの完成度はまだ60%ほどだと彼らは言います。まだ来ぬ100%を目指して、内装や品揃えを少しずつ変えていくのかもしれません。【前編】で予告したフランス修道院の手づくりフードやキャンドルはまだ取り扱われておりませんが、必ず店頭に出る日がきます。何度もこの家を訪れて、彼らが工夫するちょっとした変化を、ゆったりと流れる時間とともに楽しんではいかがでしょうか。
あまり変化を加えずに仕上げた一軒家ショップの外観。

YAECA HOME STORE/ヤエカ ホーム ストア

東京都港区白金4-7-10
TEL:03-6277-1371
営業時間:12時~20時
定休日:月曜
www.yaeca.com

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