陶芸作家、内田鋼一の400点を猿楽町で愛でる。(前編)

  • 写真:江森康之
  • 文:佐藤千紗

Share:

うつわから金属を使った立体作品まで多岐にわたる創作活動で知られる陶芸作家、内田鋼一さん。来る7月28日(月)より東京・代官山にて、およそ400点の作品すべてが購入できる個展が開催されます。

代官山の土で作陶した“猿楽茶碗”。

ろくろを挽く内田鋼一さん。やわらかな手つきで、粘土の塊からうつわがみるみる形づくられる。
両手で包み込んだような、ころんと丸いかたち。焼成の時に窯に敷く陶板のような、釉薬が掠れ、焼け焦げたような板皿の表情。内田さんがつくるのは、思わず触ってみたくなる、プリミティブでいて洗練されたフォルムとテクスチャーを併せもつやきものです。
幼い時からものづくりが好きだった内田さんは窯業高校を卒業後、世界中の窯場に住み込みながら修業を重ね、22歳で現在の地に窯を構えます。独学で世界各地の焼き物技術を修得した、異色の経歴の持ち主です。
アトリエには、猿楽茶碗をはじめ、制作中の作品が所狭しと並んでいる。
うつわ作家としての側面が注目されがちですが、内田さんの仕事は食器づくりにとどまりません。茶道具や家具、金属を使ったオブジェ、インスタレーションなど、その創作は多岐にわたります。今回の展覧会は、うつわ以外の作品も一堂に会し、スケールの大きな活動の全容が見渡せるまたとない機会となります。

内田さんの作陶の特徴のひとつに、その土地の土を使い、制作する手法が挙げられます。
「10代の頃、アジアやアフリカを旅して、土器や水瓶などの生活雑器から、土管やレンガなど建築資材まで、産業としてのやきものの現場で働いてきました。それぞれの土地で土質や天候に合わせた理にかなったものづくりを見てきたので、いまもその場所にあるものからつくることを大切にしています」
銀彩を施された“猿楽茶碗”。
ややすぼまった口から見込みをのぞくと、吸い込まれるような、滑らかな艶が広がる。
高台は小振りで、低い。茶碗全体の丸みを際立たせている。
今回、特別企画として、会場のある猿楽町のヒルサイドテラス敷地内の土を採取し、成土して、“猿楽茶碗”をつくりました。猿楽町は古来より人々が生活した土地。ヒルサイドテラスの敷地内には、2基の古墳も残されています。その歴史ある土の感想を聞くと、「土によい、悪いというのはない。石が入っていたり、雑味もあるけれど、それを引き受け、生かしながら、無理のない成形をした」とのこと。
展覧会では、銀彩や焼き締め、粉引など、かたちや釉薬を変えた50個ほどの“猿楽茶碗”が限定販売されます。あたたかみのある手触りの丸い茶碗を手に取り、見込みをのぞくと、銀彩のとろっとした艶やかで魅惑的な闇が広がっていました。

朽ちてゆくものの素材感。

加彩大壺。
加彩シリーズの板皿やボウルなどのうつわ。
もちろん、内田さんの代名詞ともいえる加彩シリーズの壷、うつわなども出品されます。小石が混じり、ひび割れたような荒い白土に、錆が浮き出たような繊細な質感。内田作品を特徴づける素材感です。
「昔からピカピカしたものは好きではなかった。ヤスリをかけて、擦れた鈍い光がいいなあと思ったり、車が擦って壁が剥げて錆が付いたところが気になったり。道で拾ってきた針金や、蚤の市で買い集めた古いものも同じテイストで、つくるものもその延長線上にある」
華やかなものより、寂びた風情、朽ちてゆくものに心魅かれる。その心情を鋭く表現しながらも、やさしく包み込むようなやきものに気持ちが動き、内田作品を求める人も多いのではないでしょうか。
緑青彩細掛花。銅管の工業資材のようにも見える花入れ。
友人の子どものためにつくったというキックボード。精緻なつくりが美しい。
ほかにも、銅や鉄釉を施した、まるで錆びた金属のような陶板、緑青の花器など、触れたくなる魅力を湛えた作品が並びます。また、鉄工所を営む実家で、やきものより以前からつくっていたという金属作品も並びます。錆び鉄加工をしたブランコや友人の子どものためにつくったキックボードなど、意外な遊び心を感じるアイテムも。
6基もの窯のある工房にたたずむ内田鋼一さん。
毎回、展覧会会場に合わせて作品をつくるため、同じ作品構成はひとつとないという内田さん。旺盛な創作活動の全体像がこれだけまとまって見られる機会は滅多にありません。会場では、プラントハンター西畠清順氏の植物が内田さんのうつわを飾るコラボレーションも見られるそうです。

内田さんの家はお客が絶えないといいます。地元の友人から、海外からやってきた旅行者まで、気取りなく付き合い、受け入れる懐の深さ。そんなつくり手の内面が表れ出たような、やさしく包みこむやきもの。古代の雰囲気と現代的な存在感を纏った作品世界をぜひ体感してください。

内田鋼一展——猿楽にて
代官山ヒルサイドテラス ヒルサイドフォーラム gallery ON THE HILL
東京都渋谷区猿楽町18-8 ヒルサイドテラスF棟1階
2014年7月28日(月)~8月10日(日)
11時~19時 ※最終日8月10日は18時まで
http://www.galleryonthehill.com/

関連記事
陶芸作家、内田鋼一の400点を猿楽町で愛でる。(後編)