服好きが集う、極私的な“セレクトサロン”

  • 写真:永井泰史
  • 文:小暮昌弘

Share:

デスティネーション ショップ04:深夜までゆったりと愉しめる「ランデヴー オー グローブ」

クラシックとモードのミックスが好み。

ショップの名前は「グローブで会いましょう」という意味です。オーナーと親交の深いフランスのデザイナー、マルセル・ラサンスの奥様が名付けてくれたそうです。オーナーの前淵俊介さんは、セレクトショップ「シップス」で、長年、海外ブランドの買い付けを担当し、以前は神宮前の「ル グローブ(le globe)」というショップのディレクターを務めていました。3年前に独立する時に、「グローブ」という名前を「シップス」から譲り受け、この店を開いたというわけです。

「もともとこの場所にはコンビニエンスストアがあったんです。渋谷の中心からはちょっと離れたところで、スペースは、このくらいの広さの物件を探していました。服だけでなく、カフェを併設していて、お酒なども飲めるショップをやりたかったんです。このあたりは、洋服をデザインするメーカーや生地店などもあって、昔から土地勘はありました。それに東という場所は、青山や代官山にもすぐに行ける、けっこう便利な場所でもあるんですよ(笑)」

この場所を選んだ理由について語る前淵さん。品揃えは、バイヤー時代につながりが深かったフランスを中心に、靴ではイタリアものが多く、アメリカや日本製の商品もセレクトされている。
「(以前やっていた)ル グローブは、クラシックなものとモードなものをミックスしたショップでした。あれが僕の好きなスタイルで、スーツでもイタリアンでビシッとキメるのは嫌で、(ロンドンの)ジャーミンストリートのシャツにウエスタンブーツを合わせるとか、そんなスタイルが好きですね。それをより進化させた形でこのショップをつくりました」
デニムウエアはオリジナルでつくった製品が中心です。パンツで4型、シャツで3型がありますが、パンツは13.5オンスの本格派から8オンスの春夏向けの製品までラインアップしています。「デニムはやはり好きですからね」と話す前淵さん。かつて「シップス」の前身となった「ミウラ&サンズ」で働いていた頃は、アメカジが中心でジーンズが大好きだったが、マルセル・ラサンスと出会ってスーツやジャケットを楽しむようになったそうです。前淵さんは、カジュアルからテイラードスタイル、モードまで、日本のファッションの流れや歴史を熟知する人物でもあります。
店に並ぶ生活雑貨や古着、書籍類などは前淵さんが個人的に集めたものが中心です。以前、店頭に並べていたドイツの「ブラウン」の電卓、時計などは、マニアが来店して、ほとんどの商品を買っていってしまったそうです。雑貨類は、海外の展示会などに行った時に蚤の市などを回って集めてくるそうです。店内の壁の一部には、鮮やかな水玉模様が描かれていますが、これはオープンの時に、前淵さんの友人のシメオン・ファラーというアーティスト兼デザイナーがライブペイントしたもの。壁の隅には彼のサインも描かれています。

バイヤーの経験が活かされた、高感度なオリジナル服。

前淵さん自らがデザインするオリジナルレーベルのメンズウエアも好調だそうです。この店以外にも「インターナショナルギャラリー ビームス」「ビショップ」「伊勢丹 メンズ館」などの日本全国の有名店で販売され、フランスやアメリカ、韓国、中国などの海外へも輸出されています。フランスの「メルシー」ではセール前にすべて完売してしまうほどの人気です。

「クラシックとモダンを融合させたデザインが特徴です。それにより手持ちの服ともコーディネートしてもらえる提案をしています。私が好きなヴィクトリアンスタイルにミリタリー、ワークといったディテールを加え、いまの時代に合ったシルエットをつくり上げます。私自身もコテコテのアメリカンカジュアルや、全身モードなコーディネートなどは好みません。時代遅れにならないモードな服を目指しています」
ウエアは毎シーズン35型くらいをデザインしているそうですが、クリエイターとしての視点だけでなく、バイヤーの経験から「売れる」服を嗅ぎ分ける力があるのも前淵さんの強みといえます。上の写真のチェックのジャケット(¥51,840)とパンツ(¥28,080)は初夏の新作。ワークウエアとモードなテイストがミックスされたデザインが見て取れます。すべて国内で縫製されていて、パタンナーは「BRICOLAGE」というチームの方にお願いしています。彼らは以前、世界的なトップブランドで活躍していたパタンナーチームです。サイズは、上下ともS、M、Lの3サイズですが、少し大きめのカッティングで、海外の人も無理なく着られるサイズ感に「大人」を感じます。
上の写真のPジャケット(¥62,640)は、ワーク、ミリタリーのディテールを取り入れたオリジナルのアイテムです。素材はウールとポリエステルの混紡で、襟元のボタンを上まで留めると、前淵さんが好きなヴィクトリアンなテイストが薫ります。白のパーカ(¥41,040)はシャツ生地で仕立てられたもので、単独でももちろん着られますが、ジャケットと重ね着すると、裾から少しだけ白が見える絶妙な長さにデザインされています。パンツ(¥41,040)はジャケットと共地でつくられていますが、股下が下がったサルエル風のデザインがモードなテイストです。
「(このパンツは)年齢が高い人に売れていますね。穿いて楽なことはもちろんですが、だらしなく見えないカッティング、素材にしていますから」
こういったレイヤード=重ね着の仕方も「ランデヴー オー グローブ」的といえるのではないでしょうか。

希少なブランドをセレクト、しかも品数豊富。

「ランデヴー オー グローブ」が扱っているブランドは小物なども入れると約20ほどです。オリジナルレーベルのウエアはメンズだけですが、レディスウエアも全体の3割ぐらいを占めています。そのなかでも「ケーシー ケーシー」は世界の限られた専門店でしか扱われていません。フランスのブランドですが、デザイナーのGarth Caseyは英国人で、ハンドメイドで服をつくり、デニムシャツ(¥61,560)やTシャツ(¥21,600)のバブル=泡のモチーフもすべて手刺繍です。

「以前は『ケーシー ヴィダレンク』というブランドで、2人でやっていたんです。レディスしかやっていなくて、僕はいつもパーソナルオーダーして自分の服をつくってもらっていたんです。それがメンズのスタートじゃないかな。たぶん日本ではウチの店が一番の品揃えだと思います」
上の写真のたっぷりとしたシルエットのコート(¥127,440)は、「ケーシー ケーシー」の代表作。製品洗いを施し、肩も「落ちる感じ」にデザインされ、手づくり感が際立ちます。シンプルさのなかに確かな存在感が光っていて、このショップでも人気のアイテムといえます。
「フォルメ デ エクスプレッション」も日本ではあまりお目にかかれないブランドで、商品量も豊富です。イタリアのペルージャ在住の韓国人デザイナー、Koeun Parkが手がけるブランドで、素材の使い方と立体裁断による美しいカッティングが特徴です。デザイナーは、ジョルジオ アルマーニやダナ キャランにも在籍していたそうで、上の写真のジャケット(¥124,200)、シャツ(¥64,800)、パンツ(¥73,440)を見ると、ナチュラルトーンの素材づかいや各所のディテールなどに、そのテイストが感じられるはずです。このブランドも前淵さんがたまたまニューヨークで見つけ、直接コンタクトを取り、扱うようになったそうです。これも国内では随一の品揃えです。

テイストが統一され、どう組み合わせても洒落て見える。

フランスのレザーブランド「アイザック セラム」も前淵さんとは親交が深いブランドで、パリでは、彼のショールームを借りて展示会なども行っているそうです。
「彼の作品は、加工やステッチがとても新鮮です。最新型のミシンや機械などを買って、新しい技術を開発するのもとても早いんです」
上の写真のレザーブルゾン(¥248,400)は流行りのMA-1タイプのデザインですが、レザーの加工が独特です。このブランドのバッグも人気商品で、レザーとメタルが使われ、シワ加工がレザーブルゾン以上に独特です。ちなみに前淵さんがバッグや靴などの小物類をセレクトする時には、自分のデザインする服に合うかどうか、を基準にしているそうです。
3足並んでいるのは、イタリアの「グイディ」の靴(上から¥131,760、¥120,960、¥149,040)で、もともとはレザーのサプライヤーだったブランドです。皮の鞣しに優れていて、高級メゾンにもレザーを供給していますが、自社ブランドで開発した靴がこれです。グッドイヤーウェルト製法の本格的なつくりですが、完成後、自社で製品洗いを施した個性派です。ソールのエッジなども削ってあり、わざと履き込んだように仕上げていますが、こんな靴ならば、前淵さんが提案する服やスタイルに似合うこと請け合いです。
この靴は「グイディ&ロゼリーニ」のブーツ(¥159,840)で、同社の別ライン「グイディ」がモダンであるのに対して、こちらは1918年に製造されたモデルを再現。これこそクラシックといえるでしょう。最高級のバケッタレザーを贅沢に使った逸品です。
「ランデヴー オー グローブ」は、自らデザインする服はもちろんのこと、セレクトされたほかのブランドものでも、オーナーである前淵さんのパーソナリティや個人的な趣味嗜好が表現されたショップといえます。最近ではカフェを併設して、生活雑貨などを売る、いわゆるライフスタイル提案型のショップも増えていますが、この店でカフェを併設しているのは、「お客さまにゆっくりと買い物をしてもらうため」と前淵さんは話します。お茶やお酒を提供しながら、お客さまと会話するのも前淵さんが店をやっている理由のひとつであり、楽しみともいえます。実際、料理なども前淵さんとスタッフが自分たちでつくっています。まさに「前淵ワールド」が堪能できる、希有なショップではないでしょうか。(小暮昌弘)

ランデヴー オー グローブ
東京都渋谷区東2-22-1
TEL:03-6419-7384
営業時間:12時~24時(火~金) 12時~20時(土、日、月、祝)
定休日:第1・第2日曜
http://rdvoglobe.blog.fc2.com