Takahiko Ishizaki

Takahiko Ishizaki / Writer / Kannushi
石﨑 貴比古/神主ライター

1978年生まれ。東京外国語大学大学院博士前期課程修了。「週刊新潮」、「Pen」の編集部を経てフリー。茨城県石岡市にある常陸國總社宮(ひたちのくにそうしゃぐう)という神社の禰宜(ねぎ)。お祭りやお祓いをしたり、原稿を書いたり書かなかったりして暮らす。趣味は料理と禊。インドでの「ガンジス禊」を計画中だが胃腸に不安が残る。
神社公式facebookページ:http://www.facebook.com/sosyagu

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常陸国の手仕事1~清水将勇と草木染めの道具~

常陸国の手仕事1~清水将勇と草木染めの道具~

『風土記』という書物がある。8世紀に朝廷が各地方に地勢や特産物などを記述させた、いわゆる報告書だ。全国で編まれたが現存するのは5つ。南から豊後、肥前、出雲、播磨、そして常陸である。『常陸国風土記』は国府、つまり国の中心地で編纂された。ということは僕が仕事をするちょうどこの場所で作られたことになる。そこで(というのも唐突だが)『新・常陸国風土記』を勝手に自認して、現代の常陸国が生んだ、素敵な事物を少しずつ紹介していきたいと思う。

今回紹介したいのは常陸国の手仕事その1。アクセサリーはあまりつけないほうなのだが、最近一目ぼれしていつ買おうかタイミングを見計らっていたものがある。木彫りのバッヂである。

常陸国の手仕事1~清水将勇と草木染めの道具~

作っているのは清水将勇(まさたけ)さん。大きくきらきらした瞳が印象的な好男子だ。


千葉県柏市の出身。大学で流体力学を専攻し、新幹線の走行に伴う衝撃波の研究をしていたという。新幹線といえば日本のものづくりの極致とも言えなくもないが、そのスケールにしろスピードにしろ「手仕事」とは程遠い。清水さんは「自分の手を動かして物を作りたい」と常々思っていた。


「木工を生業としている人たちって木が好き、という理由でその世界に入る人が多い。でも僕が木工にこだわったのは、全部自分で作れるからなんです」


そう思って職業訓練校で木工を学んだ清水さんは(ちなみに奥様とはこの時に出会ったそうだ)、茨城県は大子町の漆作家・辻徹さんに弟子入りした。大子町は茨城県最北部。袋田の滝で有名な自然豊かで山深い地域だ。(余談だが茨城県のほとんどは旧常陸国に属していたが大子町は数少ない例外の一つ)清水さんは奥様とともにすぐ近くの旧美和村(現常陸大宮市)に移り住み、辻さんの工房で修業に励んだ。


師匠の厳しい指導を仰ぎ、薪を割ったり五右衛門風呂に入ったり不便だけれど楽しく充実した毎日を過ごした後、紆余曲折を経て埼玉県三郷市にある「みつや琴製造株式会社」で和琴の製作に携わることになるが、この時期に大病を患い長期休業することになった。

「それでよくある話なんですけれど“人生は一度きりだから好きなように生きたい”と改めて思ったんですよね」

大病を克服した清水さんは何度か通りかかったことがある茨城県石岡市八郷地区を移住先に選んだ。自然に囲まれた景色がどことなくかつて暮らしていた美和村に似ていたからだそうだ。そして独立して自らの木工ブランド「Japonica(ヤポニカ)」を立ち上げ、オリジナルの道具を作り始めた。


ブランド名は杉の学名「クリプトメリア・ヤポニカ」に由来。「杉」という素材が日本の隠れた財産なのだという思いが清水さんにはある。

「日本は元々は針葉樹の文化。スギ、ヒノキ、サワラなど昔の日用品は軟らかい針葉樹で出来ていました。

最近は堅い木材が多いですが、これは西洋文化の影響なんです」


木工は食べていくのが難しい世界。オリジナリティを出そうと悩んでいた時に出会ったのが染色家・藤井三枝さんの著作だった。

「そこで初めて木工に草木染めを施すという方法を知ったんです。杉材を使えば柔らかいし木目もきれい。色もよく染み込むので面白いことになるんじゃないかという予感はありました。とにかくオリジナリティを出そうとアイディアを絞り出し、試行錯誤をした結果が現在に繋がっています」


常陸国の手仕事1~清水将勇と草木染めの道具~

清水さんの作品たちの中でイコン的なポジションにあるのがこの器「キクサカップ」だ。

「フィンランドのサーメ人は自分で作ったカップを大切な人に渡すとその人が幸せになるという言い伝えを持っています。

このカップをククサカップというのですが、自分のは草木染めなのでもじって名前をつけたんです」


コケシのように木工ロクロで挽けるのは内部のみ。取っ手が一体なのでオビノコで荒取りし、ボール盤で穴を空けてからは全てノミを使って成形せねばならない。ここが一番時間がかかるところであり、根気がいる工程でもある。

成形後、草木染め、樹脂による3回の木固め、さらに内側に2回仕上げ塗りを行うというから1つ作るだけで大変な手間である。

それだけの時間をかけたものだから、清水さんの作るものはいずれも表情豊かで味わい深い。

手仕事のぬくもりが大いに感じられるのに、それでいてスタイリッシュに洗練されているから自然と目を引くのだ。


カップだけでなくボウルや平皿、小皿などのバリエーションがあるのに加え、椅子やテーブルなどの家具もオーダーで作っている。清水さんの作品を手に入れたいなら彼がオーナーを務めるカフェに行くといい。

その名も「kikusa」。

「作品を見せる場所が欲しいと漠然と考えていたんですが、たまたま木工をやってる先輩からいい場所を紹介してもらいました」


店内には清水さんの作った道具が並べられ、椅子やテーブルも彼の手作りの作品になっている。物によってはその場で購入することも可能だ。清水さんの奥様が淹れてくれるオーガニックのコーヒーや優しい味わいのスイーツを、清水さんが作った器で味わいながら、ゆっくりと物色したい。


常陸国の手仕事1~清水将勇と草木染めの道具~ 常陸国の手仕事1~清水将勇と草木染めの道具~

昨年は清水さんが染めた木材が無印良品によるキャンプ場のポスターに使われたり、キクサカップがいばらきデザインセレクション2015に選ばれたりと徐々に注目を集めている清水さん。これからも素敵な道具たちを作り続けて欲しい。

常陸国の手仕事1~清水将勇と草木染めの道具~ 常陸国の手仕事1~清水将勇と草木染めの道具~

Japonica(工房)

茨城県石岡市中戸1078

TEL   0299-43-2860

www.ookamiwood.com


kikusa(カフェ・ショップ)

茨城県石岡市下青柳547−3

TEL 090-9830-1022

営業時間 11~18時 土、日のみ

www.facebook.com/kitokusa/


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