科学は人類になにをもたらした? チリの新鋭による傑作短編集

  • 文:瀧 晴巳(フリーライター)

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【Penが選んだ、今月の読むべき1冊】
『恐るべき緑』

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ベンハミン・ラバトゥッツ 著 松本健二 訳 白水社 ¥2,750

第二次大戦末期、ナチの高官は自ら命を絶つために青酸カリを所持していたという。毒ガス兵器の開発者、フリッツ・ハーパーを描いた「プルシアン・ブルー」。ブラックホールの存在を初めて示唆した天文学者、カール・シュヴァルツシルトの知られざる人生。不世出の数学者、アレクサンドル・グロタンディークの数奇な生涯。チリの作家が「偉大な科学者たちの評伝」という体裁で描くのは、人類の希望にも禍にもなりうる光が降りてきた天啓のような瞬間だ。詩的な想像力に惹き込まれる、ブッカー賞最終候補になった傑作短編集。

※この記事はPen 2024年5月号より再編集した記事です。